本ページはアフィリエイトによる収益を得ています
Stephens Trusonic 206 AXを購入するため、約10年強を共に過ごしたスピーカー、JBL 4425とお別れしました。
本記事ではStephens Trusonic 206 AXのインプレッションと、謎の多いメーカー「Stephens」についても調べてみました。
10年付き合ったJBL 4425との別れ
JBL 4425は、見た目のインパクトで一目惚れして試聴もせずに購入しました。
その経緯は僕のオーディオ機材変遷(その2)で、やや苦手な高域再生は僕のオーディオ機材変遷(その6・JBL 4425の高域対策編)で書いた通り、本当に色々と思い出があります。
そんなJBL 4425もMcIntosh MC30を導入して「鳴らしきった」と胸を張って言えるようになりました。こうなると別のスピーカーが欲しくなるのがオーディオ沼。
懇意にしているショップで以前から目をつけていたStephens Trusonic 206 AX(オリジナル米松キャビネット)を購入するため、JBL 4425を売却しました。
Stephens Trusonic 206 AXインプレッション
まずはTrusonic 206 AXの仕様です。
(エンクロージャーのサイズは幅600、奥行き437、高さ816mmです)
項目 | 詳細 |
---|---|
方式 | 2ウェイ38cm同軸型スピーカーユニット |
使用ユニット | 低域用:38cmコーン型 高域用:アルミ製8セルホーン型 |
マグネット | アルニコVマグネット |
周波数特性 | 不明〜18kHz |
インピーダンス | 16Ω |
許容入力 | 25W |
クロスオーバー周波数 | 1.2kHz |
外形寸法 | 高さ:387mm 奥行き:254mm |
重量(梱包時) | 14kg |
なお、インプレッション時のシステムは以下の通りです。
※試聴用入力ソースは色付けの少ないVolumioを用いました。
- スピーカー:Stephens Trusonic 206 AX(オリジナル米松キャビネット)
- プリアンプ:McIntosh C26
- パワーアンプ:McIntosh MC30×2台
- 入力ソース:Volumio (Raspberry Pi 3 Model B+ / IQaudiO Pi-DAC+)
音質はビンテージにあらず
ずっしり沈み込むような低域はないものの、JBL 4425より解像度が高く、表現力もまるで異なります。ビンテージスピーカーにありがちな極端に狭いレンジでもなく、スピード感も損なわれていません。JBL 4425は高域再生にやや難がありましたが、Stephens Trusonic 206 AXではそんな心配は微塵もなく、ハイハットやトランペットなども実に気持ちよく再生してくれます。
高域はホーンのおかげでかなり伸びる印象です。
JBL L26 Decadeほど派手さはありませんが、ナチュラルで適度な余韻を残しながら消えていく感じに好感が持てます。
Nina SimoneやSinne Eegのような女性ボーカルはもちろん、Muddy Watersのブルーズもよく似合います。Chemical Brothersのような音数の多いテクノもそつなく鳴らすのには驚きました😁
濃厚なレトロの雰囲気を纏った巨大なエンクロージャーから出てくる音はビンテージにあらず。その姿とは似つかわしくなく、ややモニターライクでジャンルもあまり選ばないスピーカーだと思います。コンデンサーを換装しているとは言え、製造後約65年が経過しているとはとても思えませんでした。
(画像はアトリエ Je-teeより引用)
雑誌「analog vol.22」の連載記事「Retro-Future」では次のように解説されています。
50年代初期に発表された38cm同軸ユニットで大型のアルニコマグネットを使用してウーファーとドライバーを共用で駆動する構造(Tannoyも同じ)とアルミを折り曲げて作られた手の込んだ高域用8セルホーンが特徴。ウーファー部分は103LX、ドライバーはP216と同じ振動板が採用され、クロスオーバーは1200Hz。Altec604と比べても低域に厚みがあり解像力も高く、クリアで抜けの良い音がするためJAZZファンに人気。初期タイプの206AXとアッテネーター付きの206AXAがある。
Altec 612を彷彿とさせるオリジナル米松キャビネット
エンクロージャーはオリジナル米松キャビネットで、Altec 612を彷彿とさせるデザインとカラー。
エンクロージャーの四隅、サランネット開口部他、角はすべて角丸仕上げ。
カラーリングは若干赤みの入ったスチールグレー。
サランネットは布製ではなく金属製で、やや赤みのある小豆色〜臙脂(えんじ)色。
エンクロージャー前面上部中央にクラシカルなフォント(手書きかも?)で「Tru-Sonic Stephens Manufacturing Co.」のプリント。この社名は1947〜56年まで使われたものなので、このエンクロージャーは製造後64年以上が経過していることになります。
背面は上下6箇所、左右10箇所、合計16箇所のビス留め、右上にアッテネーター、右下にスピーカーケーブル用ホールが配置されています。(筆者が購入したユニットにはアッテネーターは付いていませんでした)
ユニットにもTru-Sonicのロゴと「Stephens Manufacturing Co.」と記されています。
前オーナーはユニットとエンクロージャーを別々で入手したそうですが、社名変更前なので両者とも同時期(1947〜56年)のものと思われます。
※同社は「Stephens Manufacturing Corporation」から「Stephens Tru-Sonic, Inc.」へと1956年に社名を変更しています。
Eamsとも交流のあった謎の多いメーカー、Stephens
Stephensは既に消滅したメーカーです。
カリフォルニア州における会社登記時期を閲覧できるCalifornia Secretary of State(カリフォルニア州州務長官公式Webサイト)のBusiness Searchには1947年11月17日に「STEPHENS MANUFACTURING CORPORATON」が、1956年5月25日に「STEPHENS TRU-SONIC, INC.」が登記されていましたが、廃業年は不明でした。
この他、手持ちの本やWebで調べてみると、Lansingとの交流や影響の他、Eams(イームズ)とかなり仲が良かったことが分かりました。
Stephensの読み方は「スティーヴンス」
「ステファンス」や「ステフェンス」と読んでいたのですが、Google翻訳他、翻訳サイトを見ると正しくは「スティーヴンス」
なのだそうです。
発音の仕方はJay’s Tricolor Languageが参考になります。
J.B.ランシングとの接点
別冊ステレオサウンド「ヴィンテージオーディオ徹底試聴」(P.23)には次のように記されています。
スティーヴンス社は、1930年代にJ.B.ランシングらとともにシャーラー・ホーン・システムを開発したロバート・スティーヴンスが独立して興した会社で、正式社名はスティーヴンス・マニュファクチャリング社である(後にスティーヴンス・トゥルーソニック社となる)。
このあたりのことは「Handbook for Sound Engineers」の1.8.5 The Transition of Western Electric to Private Companies(Western Electricの民間企業への移行)に記されていました。
下の写真がMGM音響部門のDouglas Shearer氏によって開発されたシャーラー・ホーン・システムです。
Lansing Manufacturing Shearer Horn Model 75W5
(画像はaudioheritage.orgから引用)
Shearer氏が1971年に死去した際にThe New York Timesが彼の功績を詳細に記し、その中でホーン・システムについても触れています。
前出の「ヴィンテージオーディオ徹底試聴」ではStephensとLansingの間に交流があったことも記されています。(P.74)
実際、ランシングとスティーヴンスは、一緒に働いていたこともありますし、比較的仲が良かったと言われています。同郷の友人というたとえはかなり正解といえますね。技術面でも、ウーファーをハイカットせずフルレンジで動作させ、1200Hzから上にホーンをのせる構成などは、初期のアルテックにときどき見られる手法です。
創業者の急逝後、会社の所有権は転々?
SOUND CREATEでは次のように記されていますが、これを裏付ける情報は見つからず、創業者Stephens氏の急逝によりメーカーが消滅したのかどうかも不明です。
1960年代後半にRobert Stephen氏が急死したため、世界的に評価の高いブランドながら、日本ではほとんど知られないまま今日に至ります。
audiokarma.org他、いくつかのサイトでは出典不明の説明があり、そこには「Stephens氏は骨肉腫で1957年に死亡。同社は少なくともその後10年は継続し、Bert Berlant、Standelアンプのメーカー、そして最終的にはユタ州のスピーカー会社など、その所有権は転々としていました。」とあります。
Stephens became ill and died of bone cancer in 1957. The company continued on for at least another decade, owned variously by Bert Berlant, The builders of the Standel amplifiers, and finally the Utah speaker company.
上の情報が正しければ、60年代後半までは会社が存続していたことになります。
創業は1947年なので、約20年程度しか存続しなかったわけですね。
Eamsにスピーカーエンクロージャーのデザインを依頼
(画像はEams Officeより引用)
StephensはインテリアデザインメーカーのEams(イームズ)と共に製品を作ったことがあり、同社サイトでSTEPHENS TRU-SONIC SPEAKERSとして紹介されています。EamsとStephensの中の人は仲が良かったらしく、この友情からStephensがEamsにスピーカーエンクロージャーのデザインを依頼するに至ったとあります。
Stephens Tru-Sonic, Inc., based in Culver City, California, had a reputation for high quality audio products. In 1957, Bert Berlant and Bernard D. Cirlin took over the company. The two were friends with Charles and Ray, and drew upon this friendship to enlist the Eames Office in the design of new loudspeaker enclosures.
これらの経緯は書籍「An Eames Anthology」にも詳しく記されています。
(画像はEams.comより引用)
Eams.comによると、EamsによってデザインされたStephensのユニットを使用したスピーカーはE-1、E-2、E-3、E-4の4種類。SWITCH VOL.32 NO.12 DEC 2019(P.30)には、E-3を所持するFPMとしても著名なDJ、田中知之さんが紹介されています。
The Eames Office’s collaboration with the Stephens Tru-sonic engineers would result in a collection of four distinct models that would eventually go to the marketplace. The project would see countless prototype designs and revisions before the final models were chosen and these were released sequentially over the course of around a year. The E-1, E-2 and E-4 had additional choice options including the choice of four legs or swivel base. The E-3 three way speaker design was available only on the traditional four leg design.
StephensのロゴはEamsがデザインしたのでは?
個人的な推測ですが、Stephens社の後期ロゴ「S/♪」はEamsがデザインしたのではないだろうかと思っています。(本記事執筆時点では裏付けはとれませんでした)
上の画像、左はロゴ変更前で菱形の上にSTEPHENSとあり、いかにも古いアメリカの会社っぽい雰囲気です。
右はロゴ変更後でシンプルに円の中に「S/♪」とだけあります。
ロゴ変更前と変更後では随分デザインのテイストが異なり、余白の使い方も後者の方が優れています。
(画像はhifilit.comより引用)
上の画像の左半分はロゴ変更前のフライヤー、右半分はロゴ変更後のフライヤーです。
余白の活かし方やレイアウトも右側の方が優れていますし、前出のEams E-3のフライヤーと通ずるものがあります。
現在は化粧品メーカーが所在
Stephensの所在地として記されたロサンゼルス国際空港にほど近い8538 Warner Drive, Culver City, Californiaは、現在はSmashboxという化粧品メーカーが所在しています。
たった20年程度でも、その功績は大きい
Altecは1927年、JBLは1946年に創業し、いまだに存続しています。
Stephensはたった20年程度しか存続していませんでしたが、今回調べて改めて彼らが残した功績は大きかったと実感しました。
特にEamsのスピーカーは驚きでした。時代が今なら著名インテリアデザイナーと新進気鋭の音響メーカーのコラボ商品として確実にバズるでしょうね。
デザインやインテリアにも造詣の深いDJ、田中知之さんが所持しているのも頷けます。
筆者が入手したStephens Trusonic 206 AXも大事にしていこうと思います。