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デンマークの音響機器メーカー、Ortofon(オルトフォン)が2020年12月に発売したDJ用MM型カートリッジ「VNL」を購入したのでレビューしてみます。
ちなみにレビュー記事で使用している機材は現在に至るまで全て自腹で購入しています。
今回のOrtofon VNLはサガミオーディオでDJ用として2個購入しました。購入時(2020年12月13日)の金額は¥12,061/個でした。
その後、サウンドハウスでも取り扱いが始まりました。こちらのほうが若干安い(¥11,990/個)です。
カートリッジ(レコード針):レコードから音を拾う(取り出す)パーツです。(audio-technica アナログレコード入門)
DJ用カートリッジでも名を馳せるOrtofon
Ortofonと言えば、SPUをはじめとしたレコードカートリッジなどを製造販売するメーカーとしてオーディオマニアにもお馴染みですが、DJ用カートリッジも多数販売してします。(筆者もOrtofon Concorde NightclubをDJ用に長年愛用しています)
そんなOrtofonが突如としてリリースしたDJ用カートリッジ「VNL」の初回限定パッケージは交換用スタイラス(レコード針)が合計3本もついた太っ腹仕様。
そろそろスタイラス交換を考えていた筆者には渡に船とばかりに飛びついてみました。
群雄割拠のDJ用カートリッジ
ここで少しDJ用カートリッジの変遷について触れておきます。
コスパ抜群、シェア率ダントツNo.1だったShure M44
(画像はVinyl Engineより引用)
DJ用カートリッジのシェアは長い期間、Shure M44シリーズがその座をキープしていました。
が、Shureは「フォノカートリッジの品質維持が出来ない」と2018年夏に製造を中止すると発表。その後、純正スタイラスはほとんど手に入らなくなりました。(現在は日本のJICO社などが互換針を製造しています)
筆者は純正とJICO社製互換スタイラスの両方を所持していますが、音質は純正の方に軍配が上がります。
更に最近は何故かオーディオマニアの間でM44の実力が見直され、オークションは高騰気味になっています。
Shure M44の後継者争い
カートリッジ(厳密にはスタイラス)はDJにとって完全な「消耗品」であり、耐久性と音質も同時に求められるため、実は非常にシビアな商品なのです。
M44の製造中止後、Ortofonや100Sounds、Numark、Audio Technica、GradoなどがDJ用カートリッジを作り続けていますが、高過ぎたり、耐久性や音質がイマイチだったり、針飛びしやすい、買える店が少ないなど、決め手に欠けたままでした。
Ortofon VNL初回限定パッケージは業界への挑戦
(画像はOrtofonより引用)
そんな膠着状態の中、使用感や剛性、音質の異なる3種類の交換用針付きでOrtofonがリリースしたVNL初回限定パッケージは、ともすれば同社のConcorde等、他のDJ用カートリッジと被りかねない製品でもあり、これは業界へのどストレートな挑戦としか思えませんでした。
本気でDJ用カートリッジの覇権を狙っているのは間違いないでしょうね。
Ortofon VNL開梱
ではOrtofon VNLを開梱します。
パッケージは紙製、赤、黒、白だけを使ったスタイリッシュなデザイン。
パッケージ裏にはビニール袋に入れられた保証書が貼られています。
パッケージを開けるとOrtofonのロゴが入ったケースが現れます。
スタイラス取付済のカートリッジと交換用スタイラスが2本入っています。
スタイラス取付済カートリッジ。
スタイラスカバーは取り外ししやすいよう溝が彫られています。
スタイラス取り付け済カートリッジからカバーを外したところ。取り付けられていたのは「II」でした。
カバーを外さないと種類が分からないのはちょっと難ですね。
Ortofon VNLをぐるりと一周。
I、II、IIIを全部並べてみたところ。うーん、カッコいい😚
I、II、IIIと名付けられた同梱スタイラスの仕様は以下の通り。
(画像はOrtofonより引用)
違いは以下の2点で、これら以外の差はありません。
- 適正針圧で「I」が315Hz時のトラッキング能力は100μm
- コンプライアンス、ダイナミックラテラルが「I」は16μm/mN、「II」は15μm/mN、「III」は14μm/mN
それぞれの特徴は以下のように記されています。
「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」と記された3種類の交換針は、ダンパーを含むサスペンション機構の異なる柔らかさの違いがあり、「Ⅰ」が最も柔らかく、数字が大きくなるにつれて硬くなります。この3種類の交換針が個々のDJプレイスタイルにおける最高のパフォーマンスに貢献します。また交換針は種類の違いが容易になるようデザインされています。3種類の交換針による音質のカスタマイズも出来るので、それぞれの違いをお好みに合わせてお楽しみ頂けます。
まとめると、こう👇です。
ヘッドシェルに取り付けてみました。
Ortofonではヘッドシェルの取り付け方法をYouTubeで公開しています。こういうのめちゃくちゃ助かりますよね。
取り付けにM44G用ビスを流用したところスタイラスカバーと干渉してしまいました。取り付け時は素直に付属のビスとナットを使いましょう。
カートリッジ本体の白い部分が多いおかげで視認性が非常に高いです。暗いクラブで使うこともキッチリ考えられていますね。
VNLの針圧は3〜5g、適正針圧は4gです。(SL-1200 MK5の針圧メモリは4gまでなので1周回ってゼロになっています)
Ortofon VNL試聴レビュー
いよいよ試聴です。
試聴は以下のDJシステムで行いました。
- ターンテーブル:Technics SL-1200 MK5
- ミキサー:Allen&Heath XONE:S2 (Rotary Version)
- スピーカー:TANNOY GOLD 5
試聴盤は過去の記事「TANNOY GOLD 5とKRK ROKIT RP5 G2を比較試聴してみた」でも用いた以下の3枚をピックアップ。
- Keith Jarrett “The Köln Concert”
- The Chemical Brothers “No Geography”
- The Rolling Stones “Sticky Fingers”
Keith Jarrett “The Köln Concert”
I
ピアノの美しさ、シャープさはダントツ。
煌びやかで、伸びやか。惚れ惚れする。
会場のスケール感までは表現しきれていない感じ。
II
適度な中低域の実体感。
高域はIより控えめ。
バランス的には一番良くまとまってる。
III
高域がEQで削がれた感すらある。
ピアノの位置が妙に遠く感じる。
この盤にIIIは合わない。
The Chemical Brothers “No Geography”
I
スッキリ、スピード感とキレのある低域、耳に心地良い高域。
激しいダンスミュージックでも聴き疲れしにくく、長時間のリスニング用はこれだと確信。
II
良くも悪くもトゲがなく聴きやすい。
バスドラやベースのアタックも控えめ。
III
中低域、特に低域がかなり強く、腹にズンズン来るのが楽しい。
ただし楽曲によっては耳障りかも。
The Rolling Stones “Sticky Fingers”
I
ミックのボーカルが少し引っ込んだ感じ。
全体に線が細くロックらしさが弱い気も。
II
IIIほど芯はない。
まとまりがあって聴きやすい。
若干物足らなさも。
III
重心は低めながらも芯のある出音。
バスドラ、ラフなギターのうねりもいい。
ロックを聴くならIII。
まとめ
個人的には針飛びしにくく、音質も軽やかで長時間リスニングにも適しているIが非常に気に入りました。
Ortofon VNL初回限定パッケージは同社の意気込みが伝わってくる製品で、スペック通りIは軽やか、IIは中庸、IIIは低域強めがよく分かる結果でした。
取っ替え引っ替え遊べて、シーンによって使い分けできるスタイラスを同梱したのは「よく分かってらっしゃる!」と賛辞を贈りたいほどです。
Concordeタイプにしなかったのもヘッドシェルやリード線の「遊びの余地」を残してくれたのだろうと筆者は受け取りました。
これで実売1.2万なら断然買いです。価格が高騰気味のM44を買おうか悩んでいるDJには迷わずVNLをオススメします。
そういえば気づいたらブログを開設(2019年12月22日)して1年が経過していました。
途中、更年期障害による体調不良や愛猫の死でメンタル絶不調な時もありましたが何とか続いています。
来年もご愛読頂ければ幸いです🙇♂️